大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(ワ)7280号 判決

原告

杉山征三

原告

杉山葉子

右両名代理人

今泉政信

被告

森隆

被告

森茂

右両名代理人

山本治雄

主文

被告らは各自、原告杉山征三に対し金六七万円および内金六一万円に対する昭和四四年七月一三日以降、内金六万円に対する昭和四五年七月六日以降、支払い済まで年五分の割合による金員、原告杉山葉子に対し金一五万円および内金一三万円に対する昭和四四年七月一三日以降内金二万円に対する昭和四五年七月一六日以降、支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの、各連帯負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一  請求の趣旨

一、被告らは連帯して原告杉山征三に対し八一万八五一〇円および内金七二万八五一〇円に対する昭和四四年七月一三日以降、内金九万円に対する昭和四五年七月一六日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員、原告杉山葉子に対し五四万円および内金四八万円に対する昭和四四年七月一三日以降、内金六万円に対する昭和四五年七月一六日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二  請求の趣旨に対する答弁

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第三  請求の原因

一、事故の発生

原告征三は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)発生時 昭和四四年一月二七日午後三時三〇分頃

(二)発生地 東京都葛飾区柴又六丁目一一番三号

(三)加害車 第一種原動機付自転軍(松戸市は九一号)運転者 被告隆

(四)被害者 原告征三(歩行中)

(五)態様 歩行中の原告征三に加害車が衝突

(六)被害者原告征三は左上腕骨、左大腿骨骨折、全身打撲傷の傷害を受け、全治まで七ケ月余りを要した。

二、責任原因

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(一)被告茂は、事故当時一九歳であつた被告隆の父であつて、被告隆を家族の一員として扶養しており、加害車を被告隆のために買い与え、かつ右自転車の走行管理に関する一切の費用を負担していたものである。仮に、被告茂が被告隆の加害車購入行為を予め知つていなかつたとしても、被告茂は被告隆が被告茂を保証人として加害車を購入した行為を事後に被告茂名義の約束手形で購入の残代金および修理代金を支払う約束をしたことによつて追認している。したがつて、被告茂は加害車の運行を支配していたものというべく、加害車を自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)被告隆は、事故発生につき、前方不注視および制限速度違反(制限速度時速四〇粁のところを時速約五〇粁で進行)の過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

三、損害

(一)原告征三の治療費等

(1)治療費 一三万一五五〇円

同原告は、金町中央病院および井上病院で、治療を受け、入通院治療費として、六三万一五五〇円を必要としたが、五〇万円は自賠責保険金から支給されたので、残金一三万一五五〇円を請求する。

(2)原告葉子が付添看護のために要したタクシー代(二往復) 四〇〇円

(3)原告の入院・退院の際の交通費

二九四〇円

(4)通院交通費(タクシー片道二四〇円の三五往復分と電車片道四五円二人分一〇日間) 一万七九七〇円

(5)トイレの腰掛 二三〇〇円

(6)入通院諸雑費 一万六五〇〇円

(7)家庭教師謝礼(一ケ月七〇〇〇円、四月から七月まで) 二万八〇〇〇円

(8)近隣・学友・パトロール巡査へのお礼

六八八〇円

(9)診断書料 一二〇〇円

(二)原告葉子の得べかりし利益

四五万円

原告葉子は、有限会社上野製作所および株式会社おゝみやに勤務し、上野製作所より二万円、おゝみやより三万円の月給を得ていたが、原告征三の母として、本件事故のため、原告征三の入院中は付添い看護をなし、通院中も身のまわりの世話、通学の世話等に忙殺されたため、昭和四四年二月から七月までは、右の両会社を欠勤し、その間、給与の支給がなく、給与相当額の三〇万円を失つた。又、右欠勤のため上野製作所は同年八月一日解雇され、当分の間再就職の機会もないので、同会社の給与六ケ月分の損害(一二万円)を蒙つた。更に、同年八月もおゝみやに勤務することができなかつたため、同月分の給与相当額三万円の損害を蒙つた。

(三)原告征三の慰藉料

原告征三の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情に鑑み四八万円が相当である。

(四)弁護士費用(原告征三の関係一三万円、原告葉子の関係九万円)

以上により、原告征三は六八万八五一〇円、原告葉子は四五万円を被告らに対し請求しうるものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告らは弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、原告征三は手数料四万円、成功報酬九万円、原告葉子は手数料三万円、成功報酬六万円を支払うことを約し、手数料については既に履行期が到来している。又、成功報酬の履行期は判決言渡の日である。

四、結論

よつて、被告らに対し、原告征三は八一万八五一〇円および成功報酬九万円を除いた内金七二万八五一〇円については訴状送達の日の翌日である昭和四四年七月一三日以降、内金九万円については判決言渡の日の翌日である昭和四五年七月一六日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告葉子は五四万円および成功報酬六万円を除いた内金四八万円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四四年七日一六日以降、内金六万円に対する判決言渡の日の翌日である昭和四五年七月一六日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四  被告の事実主張

一、請求原因に対する認否

第一項中(一)ないし(四)は認める。(五)は否認する。(六)は知らない。

第二項は否認する。加害車は被告隆の所有であり、被告茂は関知していない。

第三項は、自賠責保険金から五〇万円支給されたことのみを認めその余は不知。

二、事故態様に関する主張

本件事故は、原告征三が友人数人と競争して道路を横切ろうとして左右の安全を確認することなく、突然路上にとび出したため起きた事故である。したがつて、原告征三の一方的過失によるものである。

三、過失相殺の主張

かりに然らずとするも事故発生については被害者原告征三の過失およびこれを放置した母親である原告葉子の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

第五  過失相殺の主張に対する原告の認否

原告の過失は否認する。

第六  証拠関係〈略〉

理由

一、事故の発生

請求原因第一項(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、加害車はその進行方向の左から右へ横断しようとして歩きかけた原告征三に衝突したことが認められ、〈証拠判断・略〉他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。〈証拠〉によれば、原告征三は本件事故により、左腕骨骨折、左大腿骨骨折、全身打撲傷の傷害を受け、昭和四四年一月二七日から同月三〇日まで金町中央病院に入院し、同日から同年三月二〇日まで、同年五月一日から同月九日まで、同年六月二〇日から同月三〇日までの三回に亘り井上病院に入院し、右入院をはさみ昭和四四年三月二一日から同年九月四日までの間に四五回同病院に通院して、治療を受けた結果、治療したことが認められる。

二、責任原因と過失割合

(一)〈証拠〉によれば、被告隆は捜査官に対し加害車は母に買つて貰つたと述べていることが認められ〈証拠〉によれば、加害車の月賦販売の残代金および修理代金については被告茂が約束手形を振り出してその支払を保証したことが認められる。そして、本件事故当時、被告隆が満一九歳であつたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、被告隆は事故当時無職であつたことが認められ、右の如く購入代金・修理代金も被告茂が負担したことと被告隆が無職であることを総合すれば、管理費用も被告茂において負担していたものと認められる。以上の事実によれば、被告隆は加害車の所有者として、被告茂は加害車の管理費用負担者でありしかも被告隆の親権者として、いずれも加害車の運行を支配していたものというべく、被告両名は加害車を自己のために運行の用に供していたものと認められる。

なお、原告らは、被告隆に対しては民法七〇九条の過失責任を主張しているが、同被告が加害車を所有していたことは同被告の自陳するところであり、運行の支配、利益の喪失について何らの主張立証がないから、同被告については、自賠法三条を民法七〇九条に優先して適用すべきである。

したがつて、被告両名は、いずれも、自賠法三条により運行供用者責任を負うべきものである。

(二)そこで、被害者である原告征三の過失について判断する。

〈証拠〉によれば、本件事故現場の道路は、江戸川の堤防であつて、川側の幅員一一米の未舗装部分とそれより約二米低い幅員6.5米の舗装部分とから成り、未舗装部分を通行する車は殆どなく、見透しは良好で交通規制はないこと、被告隆は時速約五〇粁で前方を注視することなく進行し、折から進路左側から右側へ渡ろうとした当時七歳の原告征三に衝突したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。右事実によれば、被告隆には前方不注視の過失が認められるに対し、被害者たる原告征三にも横断に際して右方を注視しなかつた過失が認められる。両者の過失割合は被害者二対加害者八を以て相当と認める。

三、損害

(一)原告征三の治療費等

(1)治療費 一三万一五五〇円

〈証拠〉によれば、原告は金町中央病院および井上病院の入通院治療費として六三万一五五〇円を支払つたことが認められるが、自賠責保険金五〇万円を支給されたことは当事者間に争いがないから、残金は一三万一五五〇円となる。

(2)原告葉子が付添看護のために要したタクシー代(二往復) 四〇〇円

弁論の全趣旨によつて認められる。

(3)原告の入院・退院の際の交通費

二九四〇円

〈証拠〉によつてこれを認める。

(4)通院交通費 一万七七〇〇円

〈証拠〉によれば原告の井上病院への通院実日数は四五回であり、〈証拠〉によれば、そのうち三五回はタクシーによる通院が必要で一往復四八〇円を支出し、一〇回は電車を利用して一往復九〇円を支出したことが認められる。したがつて、交通費は、一万七七〇〇円となる。

(5)トイレの腰掛 二三〇〇円

〈証拠〉によつてこれを認める。

(6)入通院諸雑費

〈証拠〉によれば、原告征三は入院諸雑費として一万六五〇〇円を下らない支出をしたことが認められ、〈証拠〉によれば、同原告の入院期間は七三日であるから、右の出捐は本件事故と相当因果関係があるものと認められる。

(7)家庭教師謝礼 二万八〇〇〇円

〈証拠〉によれば、原告征三は本件事故による入通院のため学校を欠席したためにその学習を補充すべく、昭和四四年四月から七月まで四ケ月間家庭教師を依頼し、一ケ月七〇〇〇円の割合で二万八〇〇〇円を支出したことが認められる。

(8)近隣・学友、パトロール巡査へのお礼

本件事故との相当因果関係が認められない。

(9)診断書料 七〇〇円

〈証拠〉によれば、原告征三は診断書料七〇〇円の支出をしたことが認められるが、右金額を超える支出をしたことは本件全証拠によつても認められない。

(二)原告葉子の得べかりし利益

一六万円

〈証拠〉によれば、同原告は原告事故当時株式会社おゝみやに勤務し月収三万円、有限会社上野製作所に勤務し月収二万円を得ていたところ、本件事故により、原告征三の母として原告征三の入院中は付添い、退院後の通院、通学にも付き添つたため、右の両会社を七月まで欠勤したことが認められるが、〈証拠〉によれば、原告征三の入院期間は七三日であり、通院実日数は四五日であることが認められるから、本件交通事故と相当因果関係のある原告葉子の欠勤は、入院七三日と通院実日数の約半数に当る二三日の計九六日分と認められる。したがつて、九六日分の給料相当額(五〇〇〇〇円÷三〇×九六=一六〇〇〇〇円)一六万円が原告葉子の休業損害である。

(三)過失相殺

原告征三の(一)の損害は二〇万〇一六〇円、原告葉子の(二)の損害は一六万円であるが、原告征三の前記過失を斟酌し、そのうち被告らに賠償せしめるべき金額は、原告征三については一六万円、原告葉子については一三万円を以て相当と認める。なお、自賠責保険金より支給された治療費五〇万円については、原告征三の過失が軽度であること、その諸般の事情を考慮して、過失相殺をしない。

(四)原告征三の慰藉料

本件事故の態様、殊に原告征三の過失、本件傷害の部位程度その他諸般の事情を総合勘案すれば、原告の慰藉料は四五万円を以て相当と認める。

(五)弁護士費用

以上により、原告征三は六一万円、原告葉子は一三万円を被告らにそれぞれ請求しうるものであるところ、弁論の全趣旨によれば、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告らは弁護士たる本件原告訴訟代理人に本訴の提起および追行を委任し、手数料および成功報酬を支払うことを約したことが認められるが、本件訴訟の経緯その他諸般の事情を考慮し、被告らに賠償せしめるべき金額は、原告征三につき六万円、原告葉子につき二万円を以て相当と認める。なお、弁論の全趣旨によれば、弁護士費用は遅くとも判決言渡の日には履行期が到来するものと認められる。

四、結論

よつて、被告らは連帯して、原告征三に対し六七万円および内金六一万円に対する訴状送達の翌日である昭和四四年七月一三日以降、内金六万円に対する判決言渡の日の翌日である昭和四五年七月一六日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告葉子に対し一五万円および内金一三万円に対する前記昭和四四年七月一三日以降、内金二万円に対する前記昭和四五年七月一六日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があるから、右の限度で原告らの本訴請求を認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。(篠田省二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例